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更新日時:2019.01.26


小説 / SF・ファンタジー

完結 4.黒い切り株  終章.

作品の長さ:876文字

(0)読者数:47

鉄の階段から転げ落ちた夜警には──意識があった。

 

生垣に懐中電灯の紐がひっかかっている。

体がバウンドして地面に落ちたのか……腰を打ったらしいが痛みを感じない。

このまま眠り込んだら命を失う。

 

夜警は夢を見ていると思った。

 

 黒犬が彼を見下ろしている。

雪の中に黒い姿が彫刻のように見えた。

燃える青い光がふたつ……自分が帰って来るのを待っていたあの眼が、

自転車で帰る姿を求めて、道路に出てきて、切り株のように身じろぎもしないで待っていた。

 

それほどまでに慕われた過去を男は知らない。

車にはねられた馬鹿さ加減に隠されて、五十年経っても……気づかなかった。

「ベア、来い」

 

 黒犬は、振り切れるように尻尾を振って近寄ってきた。

地面にこすり付けた頭が哀れだ。

  頭の悪い犬だと考えて、いつも頭をおさえつけた。

道路に頭をおしつけて、声を出してなでさわった。

犬はきっと、道路におればご主人が喜ぶと思ったにちがいない──そう命じられたと思ったのだ。

「ご主人様はなぜ帰ってこなかったのですか、わたしは朝まで待っていたのに……」

犬は、主人の都合などわからない──言いつけを守り、暗い道路に出て、ただ,待っていたのだ。

 

 自分はなんとおろかな接し方をした……思いやりのない人間であったろう。 

 

 犬の心がわかった時、夜警の魂はのぼりはじめた。

 

雪の構内に、黒犬が操縦する透明な飛行体がゆっくり下降して来た。

 

 黒犬は神さまの言葉にのぞみをかけていた。

五十年前、母親から自分の死を聞いても、ご主人は顔色ひとつ変えなかった。

 寿命が尽(つ)きる今、ご主人が自分を思い出してくれたら、また一緒に暮らしたい……。

自分がタイムマシーンで迎いに行くと神さまに頼んでいた。 

 飛行体は夜警の体から魂を拾い上げて、塀に囲まれた広場を回転しながら、ゆっくりのぼり、方向を変えて飛び去った。 

                                    ─おわり─

 

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