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更新日時:2019.02.01


小説 / SF・ファンタジー

連載中 7.鮎の眼をした雪女

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 夏のある放課後、腰ぎんちゃくの東原が生徒会がある二階の部屋に来た。

「好いとる女子(おなご)ができたけん……昭男、お前の字ならよかけん、これに書いてくれ。俺ん字はとても見せられんけんな」

 いつもと違う神妙さで頼んできた。つい気軽に応じてしまった。B5のレポート用紙一枚の呼び出しラブレター。一度、殴られたことのある東原がにきび面をくずして部屋に来た。だまして私に手紙を書かせたのだ。

《とても会いたいから……土曜日の五時半に地蔵さんの前で待っててください》、

そんな風の簡単な文で、名前を書くから下半分はあけといてくれと言われてそうした。

どんな女が相手なのか訊く由(よし)もなかった。東原は背後の机で封筒を持ってごちょごちょやりながら待っていたが、あの時、生徒会委員のゴム印を押して後で手紙に貼り付けたのだ。

 義弘の下卑な企みであった。その手紙が天野里美を呼び出すのに使われたと呉服屋の息子が、

時がたって打ち明けた。彼が届け役を請け負い里美が登校してきた時に渡したというのだ。

封筒の中身をのぞいたが名前はなかった。名前をだれと書かずに生徒会のゴム印が貼り付けてあった。それを天野里美が大事そうに制服のポケットにしまうのを見た。手紙を書いたのがわたしだとすぐ思ったのだろうか。

 わたしは怒り狂った。義弘の策略にはまった自分のおろかさがたまらなく情けなかった。木刀を取りに自宅に戻り、自転車の輪の間にはさんで義弘が帰ってくる道で待った。義弘の背は高くないが体操部に属して、筋肉隆々という体つきをしている。わたしはひ弱な体格であったけれども剣道部で鍛錬しているので木刀があれば手足の一本、必ず折ってやる──その気だった。

 暗くなるまで三時間待ったが、義弘も東原もその日はその道を帰ってこなかった。義弘と東原は退学相当の悪行を犯したとしてこの日を境に退学させられ姿を消していた。

その方がよかったのかもしれない。怒りに燃えて悪ガキに挑み、何か起こしておれば、わたしが天野里美の事件に関与していたことが明らかになったろう。

 和尚には偽手紙のことまで話したことがない。あまりにおろかであった自分を知られたくない

──里美は死んでいる……短かい間でも壱岐で幸せにすごしたというならそれは救いだ。

 自分を残してみんな死んだ。和尚が言うとおりなら、死んでしまったひとの霊が今更、頼まれて出てくることなどあるものか。雪女の姿は、わたしの弱い心が作り出した幻影に過ぎないのではなかろうかと思った。

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