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更新日時:2019.02.01


小説 / SF・ファンタジー

連載中 9。鮎の眼をした雪女

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  雪女は、地蔵堂の裏の地面に立ってこっちを向いている。吸い寄せられるように私が立ち上がって一歩踏み出したら眼が外れて、姿が消えていた。

 眼の前は千畳敷の白い原っぱ──雑木がとび出たところに赤茶けたイチジクの葉が埋もれ、ツバキの花が赤い布団模様のように見える。竹の根が絡まって凍りついた塊が盛り上がっているが……雪女の姿はない。

 目の前の雪のかたまりが崩れて、肩から上を突き出した女が現われた。笹の香りであろう……

草の匂いがする……わたしは妖気に打たれて震える。

 ──程なく、いつの間にか、いつの間にか……わたしが雪女を抱いていることに気がついた。

沈みこんだ手が雪のかたまりを抱いている。雪女の体は氷のように冷たくて、痛い。体温を吸収し尽くすような冷たさが私の体を突き抜けて奥深く進行する。胴から先がちぎれてなくなったような感覚の消失でめまいが起きる──景色が傾きながら倒れる。意識が遠のいて体が回転をはじめた。

 雪女は小刻みに体を動かして生気を取り戻そうとしていた。顔の凹凸がはがれ落ちて、濡れた目鼻が現れた。鼻孔が四つ……真正面に。眼はどこに……縁のある眼が真横に飛び出してぐるぐる動く、それぞれ、別の方角を見ている……前にも見た。

 見るものから見られるものにわたしは変わる。雪女に抱かれた私の上半身が走馬灯のように震えながら廻っている。ぼんやりしびれた視線の先に伏目がちの白い顔が動かない。生きた獣ではない……哀しく宙を見つめる灰色に縁どられた眼──忘れかけていた記憶。手のひらにすくいとられた生き物をいとおしむように見ていた眼、主張を認めてもらえない悔しさにうつむいた眼。

 残り少ない温かみを吸いとられて私は気を失いかける。朦朧とした意識の中で誰か私を呼ぶ声が聞こえた──瞬間、生き物が離れる動きも衝撃のように感じた。

 

 

 

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