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更新日時:2019.02.01


小説 / SF・ファンタジー

連載中 10.鮎の眼をした雪女

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 朝日に染まる障子が見えた。布団に包まれて畳の部屋に寝かされていた。枕元に和尚が座っている。長男と嫁の姿が見える。医者は今、帰ったところのようだ。

「気がついたようだな」、和尚が湯気の立つ湯飲みを口に運びながら言う。

「まだ息があったのでな、お医者が来る前に寺に運んで暖めたのがよかった.……急いで帰ってきた。坊主が帰ってきても何の役にも立たんでの」

 安心した和尚が冗談めかしてまた言う──だいぶ時間が経っているのだ。

「医者が来る前に逝ってしまわないかと心配した」

 凍死寸前の人間に対しては、病院へ駆け込むにも医者に来てもらうにも、一刻も猶予がない判断と措置を迫られる。秒読み状況の中で、冷え切ったわたしの体を長男が寺に運んで、お千代さんとふたりで介抱の手を尽くしてくれたのだ。

 長男は寺まで迎いに来て、

「先刻、出らしゃったばかり」、お千代さんに言われて山道に戻った──暗くなった坂道をジープで降りながら探し、薄暗い地蔵堂に山芋の包みが落ちているのを見つけて裏手に回った。

そこで、雪の中に倒れ込んでいたわたしを見つけた。

「大急ぎで寺に運び入れて介抱したというが、もう体が冷とうなっとってのう、とても助かるまいと思われた。わしにも責任があると思うて……」

 

 鼻をすすった和尚が声の調子を変える。

「何であんなところに。……気味の悪いほど、満足げな表情でいたというのがわからんが……よか、今は何も話さんでよか」

とにかく昨晩は、寺に泊まりこんだ長男とお千代さんがわき目も振らずに看病してくれた。田舎の内科医も電話でたたき起こして、寺まで来てもらったのだ。

 

 和尚は、腎作さんの葬儀があるのでこれからまた業者の車で出かけるという。

「葬儀が寺でダブッタらどうなることかと思ったぞ、昭男さん」

 和尚から枕もとの数珠を持たされる。ことの起こりを話そうとしたわたしは、

そのまま……安堵の眠りに落ちていった。

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